« 2008年2月 | トップページ | 2008年8月 »

2008.07.31

老境の旅人

 今年のフェアの『今日の早川さん』オビをなかなか見かけない……と探し回って渋谷パルコの地下でみつけた、ロバート・シルヴァーバーグ『夜の翼』を読了。
 読む前に想像していたよりSF色が強いというか、ホジスン『ナイトランド』みたいなのを想像していたらクラーク『都市と星』に近かった、というか。話の内容は全く違うのだけれども。

 語り手となる主人公がすでに老人であるせいか、頭上で戦闘が繰り広げられているシーンであってもピアノかオルゴールの音が聞こえてきそうな文章が心地よい。
 内容的には自分が苦手とするような(つらい話の出てくる)ストーリーなのだが、不思議と引っかからずに読み進められた。

 この主人公の諦念と惰性といらだちの入り交じった境地は、二十代の頃に読んでいてもぴんと来なかったかもしれない。
 同じ文章を読み取っていても、そこから実感を持って感じ取れるものに何があるかは、年齢によって確実に違ってくると思う。
 ……でも、シルヴァーバーグはこの話を三十代半ばで書いてるんだよなあ。
 これだから天才は。

 Amazonのレビューでも書いている人がいたけど、後半の「救い」の舞台が少々キリスト教的すぎるのが残念と言えば残念。
 とはいえ鼻につくほどではないので、一度発達した文明が衰退した後の世界を描く「遠未来SF」が好きなひとにはお勧め。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.07.30

西欧版志怪……というには道徳的かな

 本屋で見つけて衝動買いした『西洋中世綺譚集成 皇帝の閑暇』を昨日のうちに読了。
 ティルベリのゲルウァシウスという、聖職者出身で世俗宮廷に使えた人物による「世界の珍しいモノ・エピソード集」的な本。
 完成は1214~1215年頃というから、日本では源平合戦~鎌倉幕府初期のころに書かれたことになる。
 結構面白いネタが詰まっているのだけど、ワクワク度が今ひとつ高まらなかったのは『山海経』あたりに慣れすぎちゃっているせいか。
 あるいはキリスト教的な教訓話が無責任に楽しむ気分を邪魔しているのか、単に中世ヨーロッパの雰囲気に慣れ親しんでいないせいか……まあ、その辺を差し引いても、結構楽しめたのは確かだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.07.25

レベルアップ速度:Sランク

 以前、戦国無双2の浅井長政シナリオがすばらしい夢オチっぷりだと語っていたとき、友人から勧められて借りた伊藤浩士『覇者の系譜』一~三を読了。

 信長の朝倉討伐に際して、父・久政を押さえて信長についた浅井長政を主人公とした、いわば戦国時代版架空戦記。
 文章の感じは普段読んでいる小説に比べて、いかにも架空戦記というか疑似ドキュメントっぽいところのある感じだったが、それも読みやすさと「それっぽさ」を出すのに貢献している気がする。
 印象に残ったのが、長政をきわめて良く「学ぶ」人物として描いていること。
 気力と勢いだけでほとんど無能に近かった状態の長政が、信長や新しく召し抱えた側近らの影響でどんどん時代の先端を行く名君になっていく展開が、この作品の一番のおもしろさだろう。
(「良いと思ったことをどんどん取り入れる」ってのは、実際にはかなり難しいことなんだよなあ。)
 少々「主人公補正」が強い?と思える部分もあったが(信玄との決戦の最後とか)、最初から完璧超人に作られていない分、それほど引っかからずにすんだ。

 その他の人物では、柴田勝家が前半、むやみに度量の小さい人物として描かれてるけど、これは展開上やむを得ない所か。終盤になって結構化けてくれるので、これはこれで悪くない。
 もう一人、明智光秀は、底の知れない陰謀家に描かれているのがちょっと珍しい。
 それにしても光秀ってのは作品によってキャラの違いが激しいよなあ。

 3巻通して、思った以上に楽しめた。
 勧めてくれた人に感謝。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.07.16

アメリカ北東部の闇へ

『一角獣・多角獣』と一緒に注文していたアニオロフスキ編『ラヴクラフトの世界』を読了。
 本自体は2006年の出版だけど、つい買いそびれていた本。
 読む前に予想していたより、かなり良い感じだった。
 アメリカ北東部を舞台にした作品集、という構成からか、現代版『宇宙からの色』的な作品が多かったが、それも含めていい感じのアンソロジーだった。
 個人的には、少々アクションより過ぎるかもしれないが「コロンビア・テラスの恐怖」の主人公が気に入った。
 多分シリーズもののキャラクターだと思うが(前作への言及らしいくだりがあった)、チビ・デブ・ハゲの43歳という自分を自覚しながら、くじけずに超自然の存在相手に人助けをしようとする姿が泣ける。
 逃げてばかりの自分自身と見比べて、ちょっとかっこよすぎる。
 リン・カーターの作品は、先日読んだばかりの『エイボンの書』収録作とのリンクににやりとさせられた。
 そうか、どっかで見た名前だと思ったら、オサダゴワーって『暗黒の儀式』に出てきた名前だったか。
 その他の作品も意外と高水準。
 もちろん好みの差はあるが、全体にかなり楽しめた。

 大瀧氏の訳も言われているほど悪くない(というか、この程度ならクセが強いうちに入らない気がする)のだが、後書きで訳者がえらそうにしているのはどうかなあ。
 思わず『今日の早川さん』の岩波さんを連想してしまった(笑)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.07.14

救いがあったり、無かったり

 神保町で見つからず、Amazonで取り寄せたシオドア・スタージョン『一角獣・多角獣』を読了。
 北原尚彦氏の解説で「異色作家短編集」というシリーズ名の「異色作家」の定義について書かれていたが、なるほどSFともファンタジーともホラーともミステリとも言い切れない、独特の作品が収録されている。

 つらい落ちの話しも多く、決して「直球ど真ん中で好み」という訳ではないのだが、それでも読んでいて引き込まれる作品が揃っている。
 途中まで忘れていたが、収録作のうち「孤独の円盤」はSFM500号記念の時に読んでいた。
 あのときも、つらいけどいい話だと思ったっけ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.07.08

夏らしく怖い話を読む

 ……読んでるときは全く考えてなかったんだけど、もう夏だからそういうシーズンなんだよな。
 オーガスト・ダーレス編のホラー・アンソロジー『漆黒の霊魂』を読了。
 なかなか面白かった。
 元が1962年に出た書き下ろしアンソロジー(すでに故人の作者については未発表の遺稿を収録)との事で、今の目で見るとやや古めかしい作品もあるが、それも含めていい味わいの作品が収録されている。
 取りあえず印象に残った作品の感想をいくつか。

『ミス・エスパーソン』スティーブン・グレンドン
 作者はダーレスの別ペンネーム。
 やっぱりダーレスって小説上手いなあ。
 なのになんでクトゥルーものの「合作」だけあんな作品になっちゃうんだろう。

『カーパー・ハウスの怪』カール・ジャコビ
 ネクロフォビアな人には勧められない……いや、ホラーだからお薦めの作品、になるのか?
 文章から死臭が漂ってくるような感じが凄い。

『灰色の神が通る』ロバート・E・ハワード
 この本に収録された中ではちょっと異色な、歴史時代のアイルランドを舞台としたハワードらしい作品。
 キリスト教化したアイルランド・スコットランド系諸族と、まだオーディンへの信仰を持っていたゲルマン系諸族の激突にゲルマン神話の没落を絡めて、かなり迫力のある仕上がり。
 とにかく部族名と人名が解説抜きで大量に出てくるので、誰がどっちの勢力なのか予備知識があるか読み返すかしないととてもついて行けない状態になるのだけが欠点か。
 この辺が生前未発表だった所以かも。
 でも、ハワードが本当に書きたかったのは、こういう作品なんだろうなあ。ファンなら一読の価値有り。

『魔女の谷』H.P.ラヴクラフト&オーガスト・ダーレス
 これは神話ネタがミスカトニック大学と蔵書の「ネクロノミコン」しか出てこないせいか、合作ものでも悪くない仕上がり。

『窯』ジョン・メトカーフ
 うーん、凄くいやな後味の作品(注:ホラーとしてはほめ言葉)。
 主人公の度を超した思いこみ&思い入れの感じが、クライマックスへ向けてどんどん盛り上がっていくのがさすが。


 このほかの作品も結構いい感じ。
 丸善で衝動買いしたんだけど、かなり楽しめた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.07.04

再開、そして魔道書のこと

あまり構えてしまってもますます書けなくなるだけなので、唐突だけど更新を再開してみる。
ちょっとしっかり書こうと思いすぎていた本の感想も、少々略式気味で行こう。


C.A.スミスのファンとしては待ちに待った新紀元社ロバート・M・プライス編『エイボンの書』を発売日に購入、先月28日には読了。
C.A.スミスの作品とリン・カーターのオマージュ作品を中心に、後続の作家たちが間をつなぐエピソードや呪文書部分を補作し、『ネクロノミコン』と並ぶ魔道書の再現を目指した一冊。
C.A.S.以外の作者による部分も、心配したほどの違和感もなく読め、結構満足な出来だった。
これには、細かい設定の違いを新約聖書内の矛盾にたとえてフォローした編者解説(各作品の前についている)によるところが大きい。
……おかげで少々ネタばれ気味のものもあるけど。

後続作家による部分で、しばしば魔術師の行動規範に禁欲をもとめる話が出てくるが、C.A.S.の作品を見る限り、彼が魔術師に道徳的な理由以外で禁欲の必要性を感じていたとは思えないのだけどなあ。
『魔道師エイボン』(青心社版での邦題)こと『土星への扉』の最後でも「さほど上品ぶりさえしなければ、ある種の女たちもいた」なんてことになってるし。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2008年2月 | トップページ | 2008年8月 »