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2006.01.28

「拙速」は尊んじゃいけない

「兵は拙速を尊ぶ」

 この言い回しを最初にきいたのはいつだったか覚えてないが、要は企業のトップなんかが、
「あれこれ考える前に、まず行動しろ!」
 みたいな感じでつかってる言葉だ。

 こういう紋切り型の言い回しというのは大抵何かの本の受け売りなんだけど、これを言う人の間では、この言葉は『孫子』の一節だ、ということになっているらしい。

 なっているらしい……と書いたのは、実は『孫子』にそんな文章は存在しないからだ。


 正しい『孫子』の原文はこうだ。


 其の戦いを行うや久しければ、すなわち兵を鈍らせ鋭を挫く……(中略)
 ゆえに兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるを賭(み)ざる成り。

 ここで「兵」と言っているのは兵士のことではなくて「戦争」の意味。
 前後の文章とあわせて意訳すれば、こんな感じになる。

 「戦争ってのはとにかく金のかかるハナシで、長々とやってたら国がぼろぼろになってしまう。そんなときに他国に攻め込まれでもしたら、どんな天才だって対処できっこない。
 戦争で「下手くそだけど早く終わった」って話はあっても、「うまいこと長引いた」なんてことは聞いたことがない
 だから用兵のデメリットを理解してない奴に、用兵で利益を得るなんて出来っこないのだ。」

 この文章が載っているのは、『孫子』の「作戦篇」という章。
 ちゃんと原文を読めば、孫子は「拙速」を尊んでなんかいないのは一目瞭然。
 せいぜい「だらだら長引くよりはマシ」位にしか言ってないのだ。

 確かに同じ「作戦篇」に「兵は勝つことを貴ぶ。久しきを貴ばず」って一説はあるけれど、それはあくまで「実際に行動に移ったら、とっとと終わらせろ」という意味で使われている。
 そもそも『孫子』ってのは「事前準備の大事さ」を強調している本で、「相手の事前調査も自己分析も出来てない奴は、何度戦っても勝てっこない」と断言しているくらいだ。
 対陣してからの臨機応変さも、前線指揮官の独断専行を認める姿勢も、みんな十分に準備と調査をした上でのことなのだ。


 ちょっと思いついて「兵は拙速を尊ぶ」でGoogle検索したら、428件も見つかった。
 何も引用元の本を全部読め、とは言わないが、会社のトップが経営方針述べる時くらいは、該当する文章がどんな文脈で使われてるか気にしてほしいと思うんだけどなあ。

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2006.01.23

1931年1月23日、レイク隊の見たもの

 1931年1月22日午前4時、ミスカトニック大学南極探検隊の分遣隊であるレイク隊は、4機の飛行機に12人の隊員を乗せて、ベースキャンプから北西の方向へ出発した。
 同日午後10時5分、飛行中の彼らは、ヒマラヤ山脈に匹敵する巨大な山脈を発見する。
 一機の不調で山脈の麓近くにある台地に着陸した一行は、山脈周辺の調査飛行と平行してボーリングと発破による地質調査を開始。
 翌23日の午後、発破によって広げられた穴が、古生代~中生代の生物の骨が大量に存在する地下洞窟を堀り当てる。
 午後10時15分、彼らは洞窟内で今までにない標本を発見し、苦労の末地上へ運び上げることに成功する。
 そして翌24日──彼らは連絡を絶った。

 ……以前から一度やりたいと思っていたのが「作品ゆかりの日付に合わせて本を読む」というやつ。
 しかし、たいていそういうのに気づくのはその日が過ぎた後で、ネットで「今日は○○のあった日だ」等という書き込みを(翌日になってから)見つけて、あーしまったと思うのが通例だった。

 今年、たまたま思い出して調べたところ、ちょうどもうすぐその日が来ると気がついたので、『ラヴクラフト全集4』所収の『狂気の山脈にて』を読み返してみた。

 恐怖小説の作家として知られるラヴクラフトだが、彼はSFとしても通用する作品をいくつか書いている。この作品もその一つに上げてよいだろう。

 人類以前の文明、原生生物の先祖を作り出した先行種族……というと、今はやりの(?)創造進化説のようだが、ラヴクラフトが考えたのはそんなに宗教がかった話ではない。
 この作品の中では、我々人類……どころか現存する生物一般は、いわば野生化した家畜が勝手に進化したものなのだ。

 人類と似ても似つかない、異質な姿をした生物による文明を目にした主人公は、その衝撃を「冒涜的」「忌まわしい驚異」と表現する。
 異質なものを「冒涜的」「悍ましい」と表現しつづけるラヴクラフトの定番ともいえる描写だが、その彼をして言わしめた、ラスト近くのあの有名な言葉。
(あえてここでは書かない。調べればすぐわかるし、ネタばれにもなるしね。)
 ……古いといえば古い話かもしれないが、彼のSFももう少し読みたかった気もする。

『クトゥルフ神話ガイドブック』によれば、ラヴクラフトがSFに本格参入しなかったのは、彼の『宇宙からの色』(これも『全集4』所収)をヒューゴー・ガーンズバックが当時としても破格の安値で買い叩いたことに憤慨したためらしい。
 明朗健全な科学小説を目指したガーンズバックの度量がもう少し広ければ……いや、歴史のIFは、物語かゲームの中だけにしておこう。

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2006.01.04

今年もよろしく

 正月休みは気力・体力の回復に努めたというか、寒い中出歩く気力・体力がなかったというか、初詣以外はひたすら怠惰に過ごしていた。
 結局、読めた本も澁澤龍彦『うつろ舟』を再読したっきり。
 まだしばらくは仕事で忙しい日が続く予定なので、プライベートはのんびり行くことにしよう。

 ということで、今年もよろしくお願いします。

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