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2005.09.10

帝都のディー判事

 読み終わったのは先月だけど、色々あって感想書いてなかったのであらためて。

『柳園の壺』では、疫病により朝廷が疎開した後の都で、日照りと食糧不足に悩まされる中で唐王朝建国以前からの「旧家」を次々と襲った怪事件がメインのストーリーとなる。
 だが、シリーズの読者にとってストーリーと同じくらい興味深いのは、出世したレギュラー陣の姿だ。

 とうとうディー判事は県知事(知事は判事を兼任する、念のため)ではなくなり、帝都の大理寺丞(中央裁判所長官)に抜擢されている。
 しかもしかも朝廷が猛威をふるう疫病を逃れて疎開中のため、都の留守役まで兼任しているのだ。
 側近の陶侃(タオ・ガン)がそのまま大理寺秘書長官なのはまだしも、荒事担当だった馬栄(マー・ロン)、喬泰(チャオ・タイ)の二人は、なんと近衛大佐にまで出世していた。
(もっとも、やってることは以前とあまり変わらないのだが。)
 悲しいことに忠実な老洪(ホン)警部は既に亡くなっているらしい。物語の中とは言え、時の流れを感じさせる話だった。
 それにしても、最後に馬栄の兄貴が……いや、これは次回刊行予定の『Murder in Canton』(作品内時系列でも次の話)まで保留にしておこう。

 古典推理ものとしてもいい感じにまとまっていて楽しめた。シリーズのファンには安心して読める作品。

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時の力の恐ろしさ

 ダンセイニ卿の描く神々は、傲慢で、しばしばいい加減で、かつ残酷でありながら、妙に悲しい気配がする。
 それは神ですら真理については「我は知らず」と囁くのみで、不実な僕である〈時〉のために、全ての崇拝者を失って死んで(あるいは永の眠りについて)いくためだろうか。

 河出文庫のロード・ダンセイニ短編集第3弾、『時と神々の物語』を読了。
 内容は著者の短編集としては最初に出た2冊『ペガーナの神々』『時と神々』に加えて、『三半球物語』と著者の生前には短編集に入らなかった諸作品を収録している。
 ううむ、どうも分厚いと思ったら、今までの河出文庫の短編集の二倍(既刊が短編集2冊分なのに対し、今度は実質4冊分)もボリュームがあったのか。
 基本的に全訳が前提のこのシリーズ、ハヤカワ文庫FT版『ペガーナの神々』では部分訳だった『時と神々』の方も全訳されている。
 また『夢見る人の物語』にも収録されていた『ヤン川を下る長閑な日々』も、『三半球物語』の原著に従い、続編と合わせて再度収録されている。
 『三半球物語』や生前に単行本未収録だった分と『ペガーナの神々』『時と神々』の間にはやはり雰囲気の差が感じられるが、一応は神々や霊的なものについての作品が集められているため、読んでてつらくなるほどではない。

後半に収められた短編(特に『ヤン川を~』の続編2作)を見ていると、やはりロード・ダンセイニも「空想は、歳月を経るにつれ弱っており、夢の国を訪れることは、ますます希に」なっていたのだろうと思う。
 それでもふとした日常の隙間から、遙か昔に眠りについた神々の気配を感じては作品にしていたのではないだろうか。

 ちょっと毛色の変わったところでは『電離層の幽霊』。著者晩年の1955年(ダンセイニ卿の没年は1957年)に書かれたこの作品、時代のせいか、微妙にSFがかった道具立てで「ダンセイニもこんな作品書いていたのか」とちょっと面白かった。
 ……そういえば『魔法の國の旅人』収録の『われらが遠いいとこたち』も、レシプロ飛行機で火星まで行ってくる話だったっけ。

 厚みも文字数もかなりボリュームのあるので、ダンセイニの世界にどっぷり浸かりたい人に、特にお薦めしておく。

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