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2005.07.10

「戦闘」ではなく「戦災」を語る

 地球より重力が小さい環境に生まれたため、手足は触手のように細長くなっている。
 大気の薄い場所で音を聞き取るために、巨大な後頭部全体が鼓膜となっている。
 知能の発達の結果頭部が巨大化し、反対に食事として固形物を取ることが無いため消化器官が退化して、胴体がほとんど消滅している……。
 今では「タコ型の宇宙人」といえばギャグでしかないが、H.G.ウェルズが創作した当時の火星人は、人類を単なる食料としての下等動物にしか見ていない、まさに恐怖の存在だった。

 生まれた頃からウルトラシリーズがあり、SFが未来の理想として語られていた時代に育ってきた自分にとって、「最初に読んだSF」を特定するのは難しい。
 だが、最初期に読んだ「SF」の一つがジュブナイル版の『宇宙戦争』だったのは間違いない。
 三本脚の戦闘機械に乗って襲ってくる火星人たちは、当時の自分にとって紛れもなくバルタン星人やクール星人たちの「大先輩」だったのだ。
 あのころ、戦闘機械と20世紀初頭のイギリス軍、特に衝角駆逐艦「サンダー・チャイルド」との戦闘シーンにワクワクしたのは、自分だけではないはずだ。

 そんな原点とも言える『宇宙戦争』だが、大人向けの完訳を読んだのは、成人してずいぶんたってからだった。
 その時初めて気がついたのだが、ウェルズが主に描いていたのは、未曾有の災厄に見舞われた避難民たちの物語であり、当時、屈指の大国だった大英帝国の国民が「他の動物と同じになり、ひそみ、見張り、走り、隠れる」存在に成り果てた姿だったのだ。

 そうした意味でスピルバーグ監督、トム・クルーズ主演の映画『宇宙戦争』は、原作のテイストをうまく取り込んで再現している。
 派手な戦闘シーンや冒険活劇を期待する向きには薦められないが、今度の映画化は約五十年前の映画化よりもはるかに原作に近い雰囲気に仕上がっている。
 確かに映画の中心になっている「親子の絆」を始めとする付け足しは原作にはないけれど、主人公の動機付けとしてはありがちながらうまく行っているだろう。
 まあ、それよりなにより、初めてトリポッド(三本脚)こと戦闘機械が地中から姿を現すシーンで、その巨大っぷりの表現の巧さに充分満足してしまったのだが。

 100年前が舞台の原作を現代に移すにあたって少々つっこみ所もなくはないが、それも充分許容範囲だろう。むしろ、原作のエピソードをいかに置き換えるか、という点で楽しめた所も多い。
 原作を読んだことのある古典的SF者にこそ、じっくり観賞してたっぷりつっこみを入れてもらいたい(笑)作品だ。

 若干ネタバレだが、自分が子供の頃に大好きだった「衝角駆逐艦vs戦闘機械」のシーンは、今度の映画には存在しない。
 とはいえ、そのこと自体は気にならなかった。
 むしろ残念だったのは、戦闘機械を操る宇宙人(「火星人」でないのは、さすがに許容範囲だろう)がタコ型をしていないということだ。

 ……やっぱり、これって少数意見だろうか(^^;)。

p.s.
 ちょっとぐぐって見たところ、あのラストの展開を唐突だと感じた人が多かったらしい。
 ということは、昔は常識だった「○○にやられる宇宙人」って原作を知ってる人がほとんどいないのね……。
 やっぱり『宇宙戦争』『地底旅行』は、小学生の必修科目に……無理か、やっぱ。

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コメント

私のファーストコンタクトSFは、ヴェルヌの「海底二万マイル」です。
「宇宙戦争」は、実はちゃんと読んでなかったりする。「トリフィドの日」は読んだはずだが。

投稿: ファゾルト | 2005.07.11 22:56

実は、こちらは『海底二万マイル』の方をちゃんと読んでない気がします。
ジュブナイルのは読んだんですけどね。
『トリフィドの日』もジュブナイルしか読んでないかも……。
ううむ、意外と抜けてるなあ。

投稿: 狂仙 | 2005.07.14 02:41

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» WAR OF THE WORLD [Message from ABYSS]
私もやっと宇宙戦争見てきました。 何はともあれ、トライポッドがかっこいいーっす! あの巨大感、あれを見れただけでも満足。 途中、火の玉妖怪列車とか、動物園の猿み [続きを読む]

受信: 2005.09.03 22:33

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